こんな製品を開発してきました vol.1

Nyoi Design Labo. 

R−500

学校を卒業し最初に出会った製品は デュプロ ファックスR-500である。
 "ファックス"の名が付いてはいるが原稿を電話回線によって伝送する装置とは無縁の品で、今思い返すとかなり荒っぽい製品だったように記憶している。
30歳後半より年配の人だと経験はあると思うがPPC(コピー機、白焼き、ゼロックスと言う団体もある)がまだ無かった小中学生のころ、多量のプリントが必要な場合、 多くは謄写版印刷だったと思う。その原紙を"ガリキリ"で作ったのではないでしょうか?鉄筆で蝋原紙に文字を書き謄写版で印刷するアレです。
このR-500はこれらの 作業を電気的に行うもので鉛筆による手書き原稿は言うまでも無く、写真原稿でもそれなりに謄写印刷用原紙を作成できる当時としては画期的な製品だった?と思う。 外観は多くの場合直方体(無理して丸みをつけた製品もあった)で重さは30kg以上もあり、蓋を開けると横たわった大きな1本のドラムが目に入る。ドラムはデザイン的に 左右に分かれていて、その一方(R-500では左側)に原稿、他方にビニール原紙をセットし蓋をしめ機械をスタートさせる。ドラムが回転し、数秒後にシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ…っていう音が始まり、 それと同時に周辺一帯がいかにも体に悪そうなとんでもない臭いに包まれ気分が悪くなる人まで現れる・・そんな製品であった。
この臭いの原因はビニール原紙を放電破壊によって 穴を開けているためで、分析をした事はないが、恐らくダイオキシンを含んだ 大変なガスが発生していたのではないかと思われ、今ならPTAが騒ぎ出し大変な事になっていたのでは・・と想像できる。
この機械の原理は実に簡単で原稿の濃淡を電気信号に変換、変調、増幅し、 放電破壊によってビニール原紙にインクの通る穴を開けるだけの装置である。原理は簡単だが、当時は光を電気信号に変換するこの機械に適した半導体が無く、このR-500では 光電子倍増管というすごい名称のすごーーい真空管が使われていた。何がすごーいか? 価格もすごいが、現在この真空管を利用している 施設・目的がすごい。
遠い宇宙のかなたで超新星爆発が起きた時に発生する "ニュートリノ"なる微粒子?素粒子?の観測用 として地中深く何百トンの水と共に埋められ、 ニュートリノが水の分子と衝突し発生するわずかな光を電気信号に変換するために使われる。そんなすごーい真空管がその昔"電気的自動ガリキリ装置"に内蔵されていたのであ〜る。
この真空管を"自動ガリキリ機"に使用する事は技術的にも多くの問題をかかえていた。まず電源にはDC800V以上が必要で、光電感度はこの電圧に非常に敏感に依存するため、 すごく安定したDC高電圧が必要だった。しかしビニール原紙を破壊した煤が高電圧回路にこびり付くため、この安定をたびたび脅かすことになった。また同煤による光学系の汚れによって、本来印刷されてはならない原稿の 比較的白い部分も印刷され、そのたびにサービスマンが出かけなくてはならず、サービスマン泣かせの機械だったと思う。この不具合を自動的に取り除く事ができた製品がR-550でこれは後ほど解説する予定である。

この時代、悪臭が漂い、たびたび故障しサービスマンによるメンテナンスが頻繁に必要だったこんな機械でも、大きな問題にもならず、この機械を使用してくださったお客様も "この機械はこんなもんだ" と認知してくださっていた。今から思えば人々もおおらかで、技術屋にとっても良い時代だったかも知れない。


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